MHMKが照らし出した「光と影」
私は今、メンタルヘルス・マネジメント検定(以後、MHMKと表記)の学習を進めているのですが、テキストを読み進めるほどに、ある種の「救い」と、同時に強烈な「違和感」を覚えました。
救いとは、社会において「過重労働」や「ストレス過多」が、個人の弱さではなく、制度としてケアされるべき状態であると法律で定められていること、そしてそれが企業側の義務であると学んだことです。
しかし、その知識をふと、自分が長年身を置いてきた「家庭」という現場に持ち込んだとき、私は戦慄しました。
テキストに書かれている「過重労働の条件」。
それが、家庭の中にそのまま、しかも「社会的に透明化された状態」で存在していたからです。
今日は、私が知識を得たからこそ気づけた、家庭という密室の病理についてお話しします。
Ⅰ. 「仕事」と「家庭」:構造的な類似点
「家事や育児なんて、仕事に比べれば楽なものでしょう?」
そんな心無い言葉に、心をすり減らしてきた人は多いはずです。しかし、MHMKの視点で「労働の負荷」を分解すると、驚くべき事実が見えてきます。
企業における「ブラックな労働環境」と、私たちが担ってきた「家庭内の役割」。この二つを並べてみたとき、そこには構造的な同一性が浮かび上がってくるのです。
| 項目 | 仕事の過重労働(有償・法的保護あり) | 家庭内の無償の感情労働(無償・法的保護なし) |
| 勤務時間 | 定時がなく、サービス残業が続く状態。労基署の指導対象。 | 24時間365日。 夜泣き対応、急な発熱。そもそも「勤務時間外」という概念が存在しない。 |
| 代替性 | 「自分が休むと業務が回らない」というプレッシャー。 | 「ママじゃないとダメ」という逃げ場のない呪縛。ワンオペ育児や介護には代替要員がいない。 |
| 責任の重さ | 業務上の失敗が会社の損害につながるストレス。 | 家族の生命・安全・情緒的安定という、失敗が許されない最も重い責任。 |
| 裁量権 | 業務量を自分でコントロールできない(上司の指示)。 | 子どもの癇癪、家族の病状など、他者の都合で突発的に業務が発生し、拒否権がない。 |
| 感情労働 | 顧客や上司の感情を殺して対応する(クレーム処理など)。 | 家族の不機嫌や不安を吸収し、常に「良き母・妻」として振る舞い続けること。 |
見ての通りです。
私たちが家庭で担っているのは、企業であれば即座に産業医面談が必要なレベルの「過重労働」なのです。
Ⅱ. なぜ家庭内の過重労働は「透明化」されるのか
これほど過酷な環境にありながら、なぜ家庭内の労働は「楽をしている」と見なされたり、あるいは自分自身でさえ「私が頑張ればいい」と思い込んでしまうのでしょうか。
1. 経済的評価の欠如
資本主義社会では「賃金=労働の価値」と見なされがちです。どれだけ高度なケアを行っても、賃金が発生しない家庭内労働は「労働」として認識されず、社会的に「透明化」されてしまいます。
2. 「愛」という名の搾取構造
これが最も根深い問題です。「家族愛」や「母親の献身」という美しい言葉が、過重労働を正当化する隠れ蓑になっています。「愛があるなら、無償で無限に奉仕できるはずだ」という暗黙の圧力が、私たちから「NO」と言う権利を奪ってきました。
3. 働く側の「疲れ」のマウント
外で働くパートナーが、MHMK的な知識(仕事は大変だという社会的合意)を逆手に取り、「俺は仕事で疲れている」と主張することで、家庭内の無償労働者をさらに追い詰める構造があります。しかし、前述の表の通り、負荷の構造は同じ、あるいは「逃げ場がない」分、家庭の方が過酷な場合さえあるのです。
Ⅲ. 成熟していない社会から「自分を解放する」ために
残念ながら、社会が制度として「家庭内の過重労働」を認め、手当や休息を保障してくれるようになるまでには、まだ長い時間がかかるでしょう。
だからこそ、私たちは待っていてはいけません。自分で自分の心の平和を「制度化」する必要があります。
- 身体症状は「証拠」です。
蕁麻疹、過敏性腸症候群(IBS)、不眠、動悸。これらは「あなたの弱さ」ではなく、「過労の客観的な証拠」です。体が「労働基準法違反だ」と叫んでいるのです。その声を無視しないでください。 - 「母親からの卒業」を宣言する企業に定時があるように、家庭内にも境界線を引く必要があります。
「22時以降はママ閉店です」「日曜の午前は業務外です」と宣言すること。それはネグレクトではなく、あなたが壊れないための「安全配慮義務」の履行です。
結論:あなたの人生は「過重労働」であってはならない
もし今、あなたが家庭の中で息苦しさを感じているなら、どうか自分を責めないでください。
あなたが感じてきた苦痛は、あなたの能力不足でも、愛情不足でもありません。「社会的に透明化された過重労働」という構造的な欠陥が生み出した、必然の結果だったのです。
この知識を、どうかあなたの力に変えてください。
家族の笑顔を守ることよりも先に、まずはあなた自身の「心の平和」を最優先で守り抜くこと。
それが、私たちがこの過酷な現実を生き抜くための、唯一の光なのです。
次の記事では、あなたが抱えている「目に見えない疲れ」の正体を、感情労働という視点からひも解いていきます。
免責事項
※本記事は、筆者自身の過去の経験と、メンタルヘルス・マネジメント検定(MHMK)の学習を通じて得た知識に基づく、家庭内における「労働の構造」についての個人的な考察を述べるものです。
記事内の内容は、医学的な診断や治療を目的としたものではありません。体調不良やメンタルヘルスの不調を感じた場合は、必ず専門の医療機関や公的な相談窓口にご相談ください。



