はじめに:物理的な疲れの、その先にあるもの
前回の記事では、家庭内労働がブラック企業の過重労働といかに似ているか、メンタルヘルス・マネジメントの視点から構造的な類似性をお話ししました。
しかし、家事や育児のタスクをこなす肉体的な疲れ以上に、私たちを芯から疲れさせている正体不明の重荷があることに気づいている方も多いのではないでしょうか。
今回は、その重荷の正体をさらに深く掘り下げてみたいと思います。
私たちが日々行っている「3つの労働」
私たちが働くというとき、そこには3つの種類があるといわれています。
1. 肉体労働:身体を使って報酬を得る労働
2. 頭脳労働:頭脳を使って報酬を得る労働
3. 感情労働:感情を抑えることで報酬を得る労働
3つ目の労働、「感情労働」の過酷さ
特に注目したいのが、3つ目の感情労働です。
これは米国の社会学者であるアーリー・ラッセル・ホックシールド氏が提唱した概念であり、看護師や客室乗務員、接客業などの職業において、自分の本来の感情を押し殺し、相手(顧客や患者)に安心感や満足感を提供することを業務として行う労働を指します。
常に笑顔で接し、相手の不機嫌をなだめ、場の空気を整える。これには、非常に高い精神的なコストがかかるため、この感情労働で生じるストレスは大きく、メンタルヘルスの不調が生じやすいと言われています。
(※1感情労働とは?|NTTドコモビジネスより)
家庭内のケアは「高度な感情労働」である
私は、この感情労働の概念を家庭内に持ち込んでみることで、安らぎの場であるはずの家庭で、なぜこれほどに疲弊するのか?が、見えてくると思うのです。
家族の顔色を伺い、不機嫌な空気を察して先回りし、衝突を避けるために自分の言葉を飲み込む。これらは、家庭を平穏に維持するためのケア労働であり、その実態は非常に高度な感情労働の一端であると、言えないでしょうか。
家庭内では24時間365日、この無償の感情労働が求められ続けます。
働いても増えない手取りと、制限を受ける高所得者
ここで、少し視点を変えて、現実の経済の話をしてみましょう。
今の日本社会では、一生懸命働いて収入を増やしても、それに応じて税金や社会保険料が跳ね上がり、驚くほど手取りが増えないという現象が起きています。いわゆる累進課税の仕組みです。
さらに過酷なのは、一定以上の収入(高所得)になると、今度はさまざまな公共サービスや補助金の給付対象から外されてしまう所得制限の壁です。
頑張って稼いで、高い税金を納めているのに、自分たちはその恩恵を受けられない。そんな不条理な報われなさが、今の社会には漂っています。
家庭内に潜む「心の累進課税制度」
実は、家庭内の感情労働でも、これと全く同じことが起きていると例えられます。
察する能力が高く、配慮ができる心の高所得者であるあなたは、家庭の平穏を維持するために、誰よりも多くの感情コスト(税金)を払い続けていると言えるでしょう。
一方で、配慮を当然のように消費するだけでケア能力の低いパートナーなど(ここでは対比して、心の低所得者とします)は、自分の不機嫌を垂れ流し、自分からコストを払うことはありません。
高所得者であるあなたが、身を削って納めた配慮という名の税金によって整備された家庭の平穏。それを、低所得者側がフリーライダーとして享受するばかりで、あなたには感謝という還付金も、休息という社会保障も与えられない。
これは極端な例えかもしれませんが、この心の累進課税と見返りのなさこそが、私たちが抱えている深い報われなさの正体なのかもしれません。
あなたの能力は、消費されるためのものではない
あなたは、決して損をしている人ではありません。むしろ、家庭という社会を一人で支えるだけの、非常に高い能力と良心を持った高額納税者です。
しかし、その能力は、他者に無制限に消費されるためにあるのではありません。今日まで十分に払ってきた自分を認め、これからは少しだけ、自分のための時間を大切にすることを考えてみませんか。
次回は、その対策について考えてみたいと思います。
あなたが払い続けてきた尊いケアを、まずはあなた自身の心を守るために使っていいのです。
参考サイト
※1 感情労働とは?|NTTドコモビジネスより
【免責事項】
※本記事は、筆者自身の学習と経験に基づく個人的な考察を述べるものであり、医学的な診断や治療を目的としたものではありません。




