「謝りたくない」の裏にあるもの
「悪いと思ってるなら、謝るべき」
それは世の道理だ。
なんなら、悪いと思っていなくても、謝った方がその後のが円滑に進むのであれば謝ることが得策なこともある。
わかっている。わかっているけれど、どうしても謝れない。謝りたくない。
そんな、テコでも動きたくないという強烈な拒絶感。
あなたは、そんな経験ありませんか?
そして後になって少し冷静になったとき、「自分はなんて頑固なのだろう」「性格が悪いのかもしれない」と自己嫌悪に陥る。
でも、その「絶対に謝りたくない」という反応は、あなたの性格が捻じ曲がっているからとは限らないかもしれません。私たちの脳と心が、自分自身を守ろうとして必死に働かせた、正常な「防衛機能」なのです。
今回はそんな切り口で、少し心が楽になる視点をお届けしていきます。
心の自由を守る「心理的リアクタンス」
心理学には「心理的リアクタンス」という言葉があります。(※1)
人間は、自分の行動や決定の自由が脅かされたと感じると、無意識に抵抗し、自由を回復しようとする性質を持っています。
「勉強しなさい」と言われるとやる気がなくなるのも、「限定品」と言われると欲しくなるのも、すべてこの心の働きです。説得しようとすればするほど、相手の気持ちが離れていってしまうこの現象は、投げたブーメランが戻ってくる様子に例えて「ブーメラン効果」とも呼ばれます。
謝罪も同じです。 自発的な「ごめんなさい」は、自分の意思による行動です。
しかし、他人から「謝れ」と強要された(と感じた)瞬間、それは「他人にコントロールされる行動」に変わります。
あなたの心が頑なになるのは、単なるワガママではありません。「私の行動は私が決める」という、人間としての尊厳(自律性)を守ろうとする健全な抵抗なのです。
鎧を着込む私たち:防衛機制という心の壁
しかし、私たちが謝りたくなくなる理由は、単なる「指図されたくない」という反発だけではありません。もっと深い、心の奥底にある痛みが関係しています。
誰かからミスを指摘され、強い言葉で責められたとき。私たちはそれを、単なる「行動の誤り」への指摘として受け取れるでしょうか。
多くの人は、そう冷静ではいられません。
特にその行動には全く悪意がなく、誠意や善意からの行動であった場合、その失敗を指摘されると、まるで自分という人間そのものを全否定されたかのような衝撃を受けてしまいます。
フロイトが提唱した概念に「防衛機制」というものがあります。(※2)
受け入れがたい苦痛や不安、そして「人格を否定された」という恐怖にさらされたとき、私たちの心は壊れてしまわないよう、無意識に自分を守ろうとします。
それは、言い訳(合理化)として表れることもあれば、相手への逆ギレ(投影)として表れることもあります。
「謝りたくない!」と頑なになっている時、実は必死に自分を守るために、重たい鎧を着込んでいる最中なのかもしれません。
謝罪を拒む本当の理由:そこにある不信感
そして、ここからが最も目を背けたくなる、しかし重要な事実です。
私は以前「謝罪しても許されない理由」という記事で、「許すとは未来への約束」と書きました。 これは、許す側から見た信頼の話でした。(→こちら)
しかし、
謝る側も実は不信感を持っている
「謝ってもどうせまた言われる。どうせ自分という存在そのものが、いつも相手を怒らせるのだ。」
そう感じてはいないでしょうか。
「謝っても、許されることはない」と。
つまり─
謝られる側は、二度と同じことを繰り返さないで欲しいと願い
謝る側は、何度も謝罪を求めないで欲しいと願っている。
「繰り返したくない」という願いは、双方で共通なのです。
「謝罪」を未来志向の約束に変えるためには、
お互いに、「これで一旦、区切りをつけよう。同じやり取りを繰り返さないでおこう」という信頼の契約を結ぶ必要があるのかもしれません。
それはとても、難しいことかもしれません。 手軽に「こうしたらいいよ」という方法もありません。
でももし、その視点に立てたなら…次の行動は変わってくるかもしれません。
おわりに
もし今、あなたが誰かに対して「絶対に謝りたくない」と感じているなら。あるいは逆に、相手にどうしても謝らせたくてたまらないなら。
それは、どちらかが悪いわけでも、性格の問題でもなく、二人の間の「信頼タンク」が空っぽになりかけている、という緊急のアラートです。
そんな状態で無理やり「ごめんなさい」と言わせても、それは関係を修復する接着剤にはなりません。むしろ、「屈服させた」「させられた」という新たなシコリを残すだけです。
「謝りたくない」と感じたとき。 それは自分が悪い人間だからではなく、「今、私は自分の尊厳を守ろうとしているんだ」「私たちの間には、今、安心できる信頼が不足しているんだ」と気づくチャンスにしてみてください。
「ごめん」という言葉は、本来、勝ち負けを決めるための道具ではなく、再び手を取り合うための架け橋であるはずですから。
参考サイト
※1 人を説得する(1)ブーメラン効果 (オージス総研 コラムより) 説得しようとするほど相手が頑なになる「ブーメラン効果」や「心理的リアクタンス」について、行動観察の視点から解説されているコラムです。

※2 防衛機制とは?種類や具体例をわかりやすく解説 (大阪・京都こころの発達研究所 葉より) ストレスや不安から心を守るための働きである「防衛機制」について、フロイトの理論をベースに、その種類や具体的なメカニズムを分かりやすく解説している記事です。

今回の記事は、過去のこちらの記事と対になっています。




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