アリア:ココロノコエへようこそ。「深夜の相談室」のアリアです。
バード:バードの読書室、バードです。今回は珍しく、二人でお送りします。
アリア:よろしくお願いします! バードさん、いきなりですが、今回のテーマは「相手の心の声を知りたいと思うか?」です。
バード:ほう、興味深いテーマですね。
思考実験:「心の声」が聞こえたらどうなる?
アリア:ブログのタイトルが「ココロノコエ」なだけに、一度は考えてみたいテーマかなと(笑)。バードさんはどうです? 知りたいですか?
バード:うーん…知りたいという欲求は理解できます。人は常に相手の思考を推測しながらコミュニケーションを取っていますから、「答え」が知りたいと思うのは自然なことでしょう。
アリア:ですよね! でも、本当に聞こえちゃったら、どうなるんでしょう? ちょっと二人で思考実験してみませんか?
バード:思考実験。いいですね、やりましょう。
アリア:たとえば、私がカフェで友人と会っているとします。そこで、友人の心の声が全部聞こえちゃう…「あーあ、このコーヒー薄いな」とか、「今日のアリアちゃんの服、この間と同じだ…」とか。
バード:(笑)それは落ち着きませんね。
アリア:ですよね!? もし私のことを「アリアちゃんたら、ずっとニヤニヤしてる、ちょっと変…」とか思ってたら。もう、余計に緊張してニヤニヤしちゃいます(笑)。
バード:ええ。相手の「言葉」よりも、漏れ聞こえてくる「心の声」に振り回され、目の前のコミュニケーションに集中できなくなるでしょうね。
「知りたい」欲求と「感情検索」
バード:そもそも、アリアさんがおっしゃった「知りたい」という欲求は、今とても強まっているのかもしれません。
アリア:え、そうなんですか?
バード:ええ。先日、博報堂とヴァリューズという企業の共同研究レポート(※1)を読んだのですが、興味深いことが書かれていました。最近、若い世代で「感情検索」という行動が広がっているそうです。
アリア:感情検索?
バード:はい。「夜になると不安になる なぜ」とか「ありがとうと言われると嬉しい 理由」といった、自分の内心の漠然とした感情を、そのまま検索窓に打ち込むそうです。
アリア:へえー! 「不安」をそのまま検索するんだ…。
バード:レポートによると、それは「自分を知りたい」「他人を知りたい」、そして「自分と他人のギャップを知りたい」という欲求の表れだとか。まさに「心の声」の答えを、WEB上の誰かの言葉に求めているようです。
アリア:なるほど…。『私だけが変なのかな』って不安で、仲間を探してるのかも。それって、今回のテーマにすごく繋がりますね!
聞こえてしまう苦痛:「30秒ルール」という配慮
バード:ええ。それほどまでに「知りたい」という欲求が強い現代だからこそ、考える必要があります。もし本当に心の声がダイレクトに知ることが出来てしまったら…我々はそれに耐えられるのか、と。
バード:そこで、「30秒ルール」という話をご紹介しましょう。
アリア:30秒ルール?
バード:TODAY.comが報じていたのですが、アメリカのナタリー・リンゴールド先生という方が提唱した、親切に関するルールだそうです。(※2)
アリア:へえ! どんなルールなんですか?
バード:「もし誰かがそのことについて、30秒以内に変えることができないのであれば、あなたはそのことについて言及すべきではない」というものです。
アリア:あ! なんとなく聞いたことあるかも!
バード:例えば、「靴紐がほどけている」のは30秒で直せるので伝えても良い。しかし、「体型」や「髪質」といったものは、30秒では変えられませんから、言うべきではない、と。
アリア:なるほどー! それ、すごく分かります。心の声が聞こえちゃうってことは、その「30秒以上かかる、デリケートなこと」まで全部聞こえちゃうってことですよね。
バード:おっしゃる通りです。我々が意識的に「言葉にしない」と選んでいる配慮や、本人もまだ整理がついていない雑念。それらをすべて浴び続けることになります。
アリア:わー! まさに「知らぬが仏」ですね! 知らないからこそ、穏やかな気持ちでいられることって、本当にたくさんありますもん。
聞こえても「聞き逃す」脳の仕組み
バード:ええ。ですが、心の声が聞こえた場合の弊害は、それだけではないかもしれません。
アリア:え、まだあるんですか?
バード:仮に、相手の心の声が全部聞こえるからといって油断していると…かえって「相手の本当に伝えたいこと」を聞き逃す危険性がある、ということです。
アリア:え? 全部聞こえてるのに、聞き逃す??
バード:「カクテルパーティ効果」という言葉はご存知ですか?
アリア:はい! 騒がしい場所でも、自分の名前とか、興味のある話だけ急に聞こえる、あれですよね。
バード:その通りです。日本経営心理士協会の解説によると(※3)、人間の脳は、膨大な情報をすべて処理するとオーバーヒートするため、自分にとって必要な情報かを瞬時に判断し、選び分けているそうです。
アリア:無意識に、自分に関係あることだけ選んで聞いちゃってるんですね。
バード:そういうことです。つまり、たとえ相手の心の声(=雑念の洪水)がすべて聞こえていたとしても、我々は結局、「自分の聞きたいこと」や「関心のあること」だけを、その洪水の中から拾い上げて聞いているに過ぎない。
アリア:わ…! 本当だ。「あの人、私のことどう思ってるんだろう」って気になってたら、相手の心の中の、私に関する情報だけを必死に探しちゃうかも。
バード:そうなると、相手がその時、本当に伝えたかった別の重要な思考…例えば、仕事の悩みや、体調のことなどは、たとえ心の中で呟かれていても、ノイズとして聞き流してしまう可能性が高い。
結論:だから「言葉」に価値がある
アリア:うわー、それって、結局何もわかってないのと同じですね…。
バード:ええ。だからこそ、意味があるのです。相手が、その雑多な思考の中から、「これは伝えるべきだ」と判断し、責任をもって整理し、発してくれた「言葉」に。
アリア:心の声じゃなくて、あえて選ばれた「言葉」の方に…。
バード:はい。私たちは、その「言葉」を受け取ることでしか、本当の意味でのコミュニケーションは図れないのかもしれません。そして、それは言葉を発する側も同じですね。心の声に頼らず、責任をもって言葉を選ぶことの大切さを、今一度確認させられます。
アリア:思考実験してみて、本当によかったです。心の声が聞こえなくても、相手が発してくれた「言葉」を、ココロノコエとして大切に受け取る。それが一番シンプルで、一番温かいんですね。
バード:まったく、同感です。
アリア:バードさん、今日はありがとうございました。
バード:こちらこそ、ありがとうございました。
参考サイト
※1 「感情検索」から見えてくるZ世代のリアル 自分、他人、社会との関係性 博報堂若者研究所×ヴァリューズ 共同研究レポート前編 (生活データ・ドリブンマーケティング通信より)
Z世代などを中心に見られる「感情検索」の行動実態と、その背景にある「自分を知りたい」「他人を知りたい」といった心理について分析したレポートです。

※2 「30秒ルール」について(TODAY.comより)
提唱者であるアメリカの教師ナタリー・リンゴールド先生本人への取材を含めて紹介している記事です。

※3 「カクテルパーティ効果」について(一般社団法人 日本経営心理士協会より)
「カクテルパーティ効果(音声の選択的聴取)」について、提唱者や脳の仕組みを分かりやすく解説しているページです



